発掘作業

 

2017年

■2017年度(第3回)北海道考古学会学会賞・奨励賞 受賞者

学会賞 関根達人氏

【受賞理由】関根達人氏は,埼玉県生まれ,東北大学大学院にて博士号を取得されました。現在は、中世・近世の考古資料と文献史料の双方から、北海道・サハリン・千島列島への和人の進出の状況、和人や和産物(日本製品)の蝦夷地進出がアイヌ文化の形成と変容に与えた影響、蝦夷地の日本への「内国化」がどのように進行したかなどについて、実証的な研究を進められています。その成果として、2012年『松前の墓石から見た近世日本』(編)(北海道出版企画センター)、単著として2014年『中近世の蝦夷地と北方交易―アイヌ文化と内国化―』(吉川弘文館)、2016年『モノから見たアイヌ文化史』(吉川弘文館)を上梓されています。関根氏はアイヌ史や日本史の枠を超えた蝦夷地の歴史(「蝦夷地史」)を提唱するとともに、その実現に向け、アイヌ考古学と中世・近世考古学を融合する研究を行っています。関根氏が取り組む「蝦夷地史」は北方史上の成果にとどまらず、考古学による歴史研究として高く評価され、北海道の考古学研究にも大きな刺激を与えています。

 

奨励賞 荒山千恵氏

【受賞理由】荒山千恵氏は,北海道札幌市生まれ,札幌国際大学を2002 年に卒業された後、北海道大学大学院文学研究科に進学し、2008 年には博⼠論文『人類史における「音」の文化の考古学的研究』によって北海道大学より博⼠(文学)の学位を授与されました。博士論文は2014 年に『音の考古学―楽器の源流を探る』(北海道大学出版会)として刊⾏されました。2012 年には⽯狩市に入庁され、現在いしかり砂丘の風資料館学芸員として活躍されています。近年は地元の遺跡から出土した⽊製品に関する研究も深め論文執筆・学会報告をされる一方、博物館活動では企画展やワークショップを開催し、市⺠と共に学ぶ・考える・活動する、開かれた考古学の実践を続けており高く評価されます。今後のさらなる活躍を期待します。

 

2016年

■2016年度(第2回)北海道考古学会学会賞・奨励賞 受賞者

学会賞 菊池俊彦氏

【受賞理由】菊池俊彦氏は考古学・東洋史学の立場からオホーツク文化の起源やアムール河中・上流域の諸文化との比較研究に多大の貢献をされた。氏の研究目的は,環オホーツク海周辺域の古代諸文化の解明と相互関係を追求することにあり,北海道に出現したオホーツク文化やアイヌ文化を従来にない視点から位置づけられた。1995年には長年の研究成果を『北東アジア古代文化の研究』(北大図書刊行会)として上梓(第10回濱田青陵賞受賞)され,名実ともに列島北部地域と北東アジアの関係史の第一人者として,その地位を確たるものとされた。その後も『環オホーツク海古代文化の研究』(北大図書刊行会2004)、『オホーツクの古代史』(平凡社2009)を著された。北大を定年退職された現在も論文等の執筆、講演等に活躍されている。 また、1967~1979年の12年の長きにわたり、大場利夫初代会長のもとで北海道考古学会の事務局を一手に引き受け、設立間もない学会の運営に多大な貢献をされた。

 

奨励賞 松田宏介氏

【受賞理由】松田宏介氏は、続縄文文化期を主な研究対象としている。氏の研究の特色は、資料の緻密で地道な分析と理論的な議論の展開にある。豊浦町礼文華貝塚・小幌洞窟・江別市旧町村農場・えりも町東歌別など続縄文文化期の基準土器資料に今日的な再検討と精緻な資料提示を行い、学界に貢献されている。その一方、先行研究に緻密な分析を加え、従前認識されていなかった枠組みや視点について刺激的な議論を展開してきた。また同時期の北海道外の様相も視野に入れ、今後の研究の方向性を提示し、続縄文期の土器研究における議論をリードしてきた。学位論文「続縄文期における土器型式圏の変動とその背景」で2008年に北海道大学から博士号を授与された後も、室蘭市教育委員会に勤務するかたわら地道な研究活動を継続しており、更なる研究の進展が大いに期待される。

 

2015年

■2015年度(第1回)北海道考古学会学会賞・奨励賞 受賞者

学会賞 北構保男氏

【受賞理由】北構氏は1918(大正7)年に根室市に生まれ、中学時代から考古学を志し、國學院大學に入学後本格的に北方地域の古代文化の研究を開始されました。1941(昭和16)年、國學院大學を卒業後、大東亜省及び文部省民族研究所で研究活動を行い、終戦後、根室市に帰郷し、印刷会社を経営しながら、「オホーツク文化の解明」を目的に根室地方の遺跡調査に取り組まれます。調査には東京教育大学などの国内外の研究機関、研究者も参加し、オホーツク文化研究を推進されました。その学問領域は、民族学や海外文献の翻訳に及び、1991(平成3)年には自身の研究成果を集大成した『古代蝦夷の研究』(雄山閣)を上梓、國學院大學より文学博士の学位を授与されました。また、埋蔵文化財保護に対する体制が未整備の段階から埋蔵文化財の記録保存のため若い学徒と発掘調査を担われました。1971(昭和46)年以降、北海道文化振興審議会委員、北海道文化財保護審議会委員を歴任し本道の文化財保護に貢献されました。北海道考古学会においても、発足から活動確立期に多大な指導・援助を行われ、また長く顧問として後進の育成に携わってこられました。

 

奨励賞 大坂 拓氏

【受賞理由】大坂氏は北海道生まれ、明治大学大学院を修了され、現在は北海道博物館に勤務されています。氏は縄文文化晩期から弥生・続縄文文化の土器編年を中心とした研究を進められています。研究を特徴づけているのは、一括資料・層位資料を基準とし、それをもっとも矛盾なく説明する型式区分・変遷を考究する姿勢です。また広域編年上の位置づけをつねに意識した研究を、多くの資料の観察・実測作業とともに積み上げられてきました。その結果、東北の縄文晩期後葉などにより有効な型式の認定基準が存在する点、また、恵山式の広域編年上の位置づけなど編年理解に地域的なズレがあることを指摘されています。氏が提起する年代軸で地域間の交流を考えるとき、新たな歴史理解に到達できる潜在的な可能性が生まれてきており、将来の刺激的な研究展開がおおいに期待されるところです。

2018年

■2018年度(第4回)北海道考古学会学会賞・奨励賞 受賞者(授賞理由など)について

 

学会賞 野村 崇(のむら たかし)氏

 【受賞理由】野村崇氏は、北海道長沼町生まれ。札幌西高等学校で郷土研究部入部が 考古学の道に進む契機となりました。明治大学で考古学を専 攻、卒業後は道内高校教員を経て、北海道開拓記念館に勤務、 長年にわたって道内の遺跡の発掘調査と研究に従事されまし た。 野村氏の活動領域は北海道の縄文・続縄文・擦文・オホーツ ク・アイヌの各文化の遺跡の発掘調査にとどまらず、北方地 域のサハリン・千島・カムチャツカ・沿海地方の考古学調査に及んでいます。サハリン では戦後最初の日本人として、発掘調査に参加されています。このような研究方法を通 じて、野村氏は北海道と北方地域の諸文化の関係の研究を推進し、若手研究者に刺激を 与え、広く北海道考古学の研究の発展に多大な貢献を果たされてきました。 1985(昭和 60)年に著書『北海道縄文時代終末期の研究』(みやま書房)を上梓して、 縄文後期~晩期の北海道の土器の諸相を解明されました。また著書『日本の古代遺跡: 北海道Ⅰ・Ⅱ』(保育社,1988・1997 年)は平易な解説によって、北海道の広汎な遺跡 が全国に周知される大きな寄与となりました。 そのほか、北海道考古学のみならず、樺太考古学研究史・樺太庁博物館・サハリン考 古学関係の多数の著書・編書を刊行して、北海道とサハリンの考古学の学術交流・啓蒙・ 普及を推進されました。 野村氏は北海道考古学会創立当初からの会員として活躍し、1983~1987 年には本会 の委員長に就任、また 2003~2005 年には会誌の編集委員長、2013 年 10 月挙行の本会 創立 50 周年記念事業特別委員長に各就任、本会の発展と充実に尽力され、後進を育成 されました。

 

奨励賞 榊田 朋広(さかきだ ともひろ)氏

【受賞理由】榊田朋広氏は、札幌市埋蔵文化財センターにて文化財保護業 務に携わる傍ら、東京大学にて博士号を修得し、擦文文化の研 究を精力的に進めています。 主たる業績である擦文土器の型式編年研究では、擦文土器・ 北大式土器・トビニタイ式土器の編年を本州やサハリンの土器 編年と対比させて広域編年を確立するとともに、土器の型式交 渉から北東アジア北方史における地域間交流の実態を明らかにすることに努めていま す。榊田氏の編年研究の特徴は出土資料を広域かつ網羅的に収集して定量的な分析を 試みたことにあり、広い視野と分析の緻密さを両立させた研究姿勢は高く評価されま す。 また、最近では研究対象を遺跡出土炭化種実の分析等による穀物利用や、竪穴住居 跡の分析による居住形態の研究などのテーマなどにも積極的に広げており、古代北方 史を多角的な視点から解明する試みとして、今後の研究が大いに期待されます。

 

2019年

■2019年度(第5回)北海道考古学会学会賞・奨励賞 受賞者(授賞理由など)について

学会賞 西 幸隆 (にし ゆきたか)氏

【受賞理由】西幸隆氏は、北海道釧路市生まれ。釧路湖陵高等学校の考古学研究部に入部し、釧路市立郷土博物館(現釧路市立博物館)の澤四郎氏のもとで緑ヶ丘遺跡などの発掘調査に参加して考古学に興味をもち、駒澤大学に入学してから本格的に考古学の道を歩み始めました。大学を卒業後、釧路市立郷土博物館に就職し、東釧路貝塚、東釧路第2遺跡、幣舞遺跡、材木町5遺跡、北斗遺跡、フシココタン チャシ跡など北海道の考古学史に残る数多くの遺跡の発掘調査を行い、報告書として刊行されました。1990(平成2)年から1996(平成8)年までは、釧路赤十字看護専門学校で非常勤講師として文化人類学のうち特に「異文化理解」についての講師を務めました。北海道考古学会の委員として本学会に貢献したほか、1992(平成4)年から北海道教育大学釧路校で考古学の非常勤講師を勤め、1996(平成8)年から日本考古学協会委員(現理事)として2期4年に渡り日本考古学の最前線で活躍されました。1999(平成11)年には、北海道考古学会が全面的に協力し、北海道では29年振りとなる日本考古学協会釧路大会(開催テーマ:海峡と北の考古学-文化の接点を探る-)を誘致し大会実行委員として開催に尽力されたことが特筆されます。1991(平成3)年からは釧路市埋蔵文化財調査センター長、2004(平成16)年からは釧路市立博物館長として北海道の埋蔵文化財、社会教育に大いに貢献され、2004(平成16)年には文部大臣表彰を受賞されています。 現在も北海道埋蔵文化財センター評議委員、釧路市文化財保護審議会委員、標茶町文化財専門委員会委員長、標茶町博物館運営審議会委員長、厚岸町史跡国泰寺跡保存整備委員会副委員長として遺跡保存等で活動を続けられており、1933(昭和8年)に発足した釧路考古学研究会の会長としても活躍されています。

 

奨励賞 三谷 智広(みたに ともひろ)氏 

 【受賞理由】三谷智広氏は、動物遺存体を主な対象とする研究者です。研究の特色と成果は、なにより資料の地道な同定と分析にあります。特に近世アイヌ文化期の貝塚分析において伊達市有珠湾周辺の資料同定を自ら行い、当該期の地域的な生業活動の分析を手掛ける一方、同定に不可欠な現生骨格標本の作製を行い、動物考古学研究において土台となる活動を地道に行ってきました。 資料の分析は同定のみならず、動物遺存体から導き出される狩猟・漁労活動の季節性分析や解体痕の 観察など多岐にわたり、動物骨から過去の人々の生業活動を理解しようとする姿勢が評価されます。 2006(平成1 8)年に札幌大学大学院修士課程を修了後は、洞爺湖町教育委員会に奉職するかたわら、史跡入江・高砂貝塚の動物遺存体を分析されています。「人と動物とのかかわり」をテーマに、縄文から 近世にかけての生業活動を分析する研究活動を継続しており、今後も更なる研究の発展が期待されます。 また、洞爺湖町は世界文化遺産の推薦候補である「北海道・北東北の縄文遺跡群」の構成資産を有しており、史跡整備のほか、住民に対する講座の実施など、考古学を市民に広げる活動を積極的に行っており、この点においても活躍が期待されます。

 

 

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